「メイコ」
背後から呼ばれ、振り返った。振り返る間にカイトはもう一歩詰めていて、手にしていたショールを巻きつけながら肩を抱く。辺り憚らない様子に苦笑して、メイコはその腕に手を触れさせた。
「もう戻るところだったの。本当よ?」
けれどカイトは腕を解くことをしない。そう願うね、と低めた声を耳朶に唇を寄せて吹きこむ。こそばゆくて、メイコは身を捩った。
強く逃れようとしたわけでもないのだが、カイトは廻した腕の力をさらに込め、メイコを抱き寄せる。何か面白いものでもあった、と尋ねて来た。
その声音が含んだ僅かな翳に、ああ心配させたのだ、と思う。
「少しね、昔のことを思い出してた。カイトが小さかった頃のこと」
小さかった男の子は、今はメイコを腕の中に捉うほどに大きくなった。背も伸び、骨格もしっかりして、そればかりではない。
カイトは、メイコの首筋から頬へ唇を寄せる。触れるだけで引き攣れた火傷の痕を愛で、メイコを抱きしめた。
「俺が小さかった頃は、メイコだって小さかったろう」
切り揃えられた襟足の毛先に鼻先を埋めてくる。かかる吐息がくすぐったくて、メイコは肩を竦めた。
「心配させないで」
カイトは腕を肩口から滑り落としてメイコの腰を抱いた。腹の前でそっと両手の指を組み合わせる。
その手に手を重ね、うん、とメイコは頷いた。



<了>