窓辺に明るい日射しが降りている。見渡して探すまでもなく、妻の姿はそこにあった。揺り椅子をゆっくりと揺らす後ろ姿に相好はつい緩む。カイトは杖突き足を急がせ、その背に歩み寄った。
「メイコ」
杖を持たない右腕をその肩に廻らせて、後ろ頭の丸みに口付ける。
驚かせたということはないはずだ。杖を突く左脚は忍ぶのに向かない。だがカイトの腕の中、身動ぎ振り返ったメイコは何か探るように、確かめるように見上げてきた。
「メイコ?」
意図の見えない視線に、返す眼差しは怪訝なそれになる。訝るカイトに、メイコは気まずげに笑んだ。腕を伸ばしてくる。
カイトの項に欠いた指先が触れて、彼女が捻った上体を伸び上がらせるのと合わせて引き寄せられる。唇が触れ合わされた。
「今ね、思い出したことがあった気がしたの」
くすり、とメイコは苦笑する。
「でもなんだかすぐに忘れちゃったわ」
座り直して見上げる、メイコの隣に回る。右手の手袋の、中指を咥え、引き抜いた。手の平で左頬、手の甲で右頬に触れる。引き攣れた傷痕夥しい右頬には、もう一度手の平で触れた。熱を持つようなことはないようだ。
「日向で眠りこけるのはあまり感心しないよ」
手袋を持って、揺り椅子の肘掛に置かれた手に手を重ねた。手袋に包まれるとわかりにくいが、その指先は不揃いだ。
「寝ぼけてなんかないわ、失礼ね」
少し拗ねた声音で、見上げる榛色の眸が睨めつける。ごめん悪かった、とそれだけでほどかれる眉間の皺だから、呟きながら口付けた。
秀でた額に、そして鼻筋に。少し離して綻んだ眼差しに視線を絡め、もう一度、唇を重ねた。

<了>




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