西日眩しいベッドルーム。窓辺の揺り椅子が母の気に入りで、彼女はいつもそこにいた。メイコは椅子を揺する母の膝に乗り、数え歌を聞くのが、時に声を合わせて歌うのが大好きだった。母と同じ胡桃色の髪を撫でる母の指は歌声と同じように細く優しく、メイコはその温かさに目を細めて笑ったものだった。
だから、一人パウダールームで遊んでいて寂しくなったメイコは、隣室への扉を開けた。きっと気に入りに腰掛けているだろう母の元に行こうとしたのだ。乳母に止められたような記憶もあるから、一人で遊んでいたというのは思い違いかもしれない。そっと隣室を覗き込むと、果たして母はそこにいた。予想通りに揺り椅子に腰掛け、けれどメイコはその様子に立ち竦んだ。
いつもは優しいばかりの面差しが、眉根を寄せて目を瞑り、固く何かを拒むかのようだ。そんな母を宥めるつもりか、父が後ろから抱きすくめ耳元に何事かを囁いている。けれど感情は収まらず、ついにはぽろりと涙が零れ落ちた。顔を覆ってふるふると首を振り、細く聞こえるのはごめんなさいと母の謝る声。そして父の、悪いのはすべて僕なんだよと囁く言葉。母の後ろ髪を撫でながら口付ける姿を、メイコは茜に染まる窓辺に見詰めていた。
「ごめんね……ごめんなさい、カイト……」
母の声は細く震える。
「違うよ。悪いのは、僕なんだ」
父は母の背から腕を廻らせ肩を抱き、その後ろ頭の丸みに、鼻先を埋めて襟足に、幾度も口付けていた。
「それでも僕は、貴女を愛してる。ねぇ、メイコ」



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